* Sweet Caramel Massage *
今月も後半に差し掛かった、ある日。
ハードなカリキュラムをこなして寮に戻った尾美の部屋には、いつものように康が
遊びに来ていた。
ちなみに、石川と小野は調べ物があるといって、まだ帰ってきていない。
当たり前のようにベッドに腰掛けていた康は、コーヒーを淹れている尾美を眺めて
いたのだが・・・・・・なにかが気になった。
「なぁ・・・尾美、どうかした?」
隣に座りコーヒーを康に手渡した尾美は、なんのことかわからずに首を傾げる。
「どうって、なにがだ?」
―――キョトンとした表情がとんでもなく可愛い。
そんなことを思いながらも、康はいつもの笑顔で先ほどちょっと引っかかったことを
更に訊いてみる。
「んー・・・なんか、疲れてる?」
「疲れてなんかいないぞッ!!」
「そう? オレは疲れてるけど」
「・・・・・・」
図星を指された尾美は思わず反論したが、あっけらかんと言われた言葉に沈黙した。
「・・・で? どこがツライの?」
そんなことはお見通しの康は、「仕方がないな」とでもいうように促すと、尾美は
ちょっと拗ねたように上目遣いで見上げてくる。
「お前は、なんでわかるんだ」
「見てりゃわかるよ。違和感とかあるんじゃないか?」
「・・・・・・背中が・・・ちょっと」
他のメンバーには強がって弱みをみせないようにしている尾美だが、康の甘やかし方は
心地いいのか、滅多にないくらい素直になる。
そんな些細なことに康が優越感を感じているなんて、本人はこれっぽっちも気がついて
いないのだが。
「最近ハードだったし、疲れが溜まってきてるんじゃないかな〜。・・・・・・ホレ、ベットに
横になって」
素直な尾美に気をよくした康は、コーヒーの入った尾美のマグカップをひょいと取り上げて
テーブルに置いた。
「は?」
「寝転がって。マッサージしてやるよ」
「・・・へ?」
「オレ上手いよ〜。ホラ、横になる」
「あ・・・うん」
当たり前のように進んでいく会話についていけなかった尾美は、よくわからないながらも
言われた通り、ベットにうつ伏せになったのだった。
「・・・うぅ・・・」
大きな手で尾美の背中を的確にほぐしている康は、呻く尾美にやや呆れたように呟いた。
「・・・お前、はやく言えよ・・・すげぇツラかったんじゃねーの?」
その言葉に、呻きながらも負けず嫌いの尾美は律儀に反論してくる。
「うるさい・・・誰も・・・何も言わないじゃないか・・・」
「えー? ストレッチでもどうしようもないときは、マッサージとかするぜ?」
「・・・・・・そういう・・・もんか?」
「そういうもんだろー。部活のあととかやんなかった? ・・・て、尾美は運動部じゃなさ
そうだよな」
「・・・う〜・・・」
もちろん、そんなことの経験がまったくない尾美は唸ることしかできない。
そんな尾美に苦笑を漏らして、康はリラックスさせるように優しく声をかけてやる。
「力入れるな、ラクにして」
「・・・・・・ぅ・・・」
「痛い?」
「・・・だい・・・じょぶ」
「我慢すんなよ〜?」
「・・・ん・・・」
他人にこうやって触られることが苦手な尾美だったが、相手が康だという安心感も
手伝って、だんだんと緊張が解けてきた。
ほぐされることで血の巡りも良くなってきたのか、それとも康の手が暖かいからか、
身体がポカポカとしてくる。
「どーだー?」
「・・・ぅん・・・あったかくて・・・気持ちいい・・・」
相当気持ちいいのか、消え入りそうな声が返ってきたことに康は思わず微笑を浮かべる。
「そりゃ良かった」
「・・・ん」
そして、そのままマッサージを続けるのだった。
「・・・ホイ、こんな感じでどうだー?」
「・・・・・・」
かなり疲れていたらしい尾美の身体を一通りほぐして、よし、終わり!とばかりに
声をかけたが、返事がない。
「・・・あれ? 尾美〜??」
どーした〜?と、ベットにうつ伏せになっている想い人を覗きこむと。
「・・・すー・・・」
いつの間にか、気持ち良さそうに眠り込んでしまっていた。
「寝ちゃった・・・? そんなに気持ちよかったかー?」
チャカしながら頬にかかる髪を梳いても、起きる気配もない。
「おーみ」
「・・・ん・・・」
お気に入りの綺麗な髪を指で梳きながら柔らかく呼びかけると、声に反応したのか
眠っている尾美は軽く寝返りをうって、康のほうに擦り寄ってきた。
「お前な・・・こんな無防備だとイタズラしちゃうぞ、オイ」
無意識の行動のあまりの可愛さに、理性が飛びかけるのがわかって苦笑が漏れる。
頬もうっすらと色付いて、幼さと色っぽさが絶妙に絡み合っているのも目の毒だ。
まぁ、役得だよな、と結論付けて、康はちゃっかりと眠る尾美から、そっと頬と唇から
小さくキスを盗んだ。
ゆっくりと離れても、尾美はなにも気付かずに幸せそうに眠っている。
「・・・ほんと、可愛いの」
*****
「ふぅん。康にマッサージしてもらったんだ〜」
顔色もよく、溜まっていた疲れが取れたような尾美から聞いた話に、クロウは面白そうに
相槌をうった。
「あぁ。マッサージとかしたことないから、なんか変な感じだったな」
そんなクロウの意図に気付くわけもなく、綺麗で可愛い黒髪の同期は素直に言葉を返す。
「なるほどー、初体験。 ・・・で、感じちゃった?」
「ブッ!」
クロウの言葉につい連想してしまったことに、宇崎は盛大に飲んでいたカフェオレを
噴き出した。
それを不思議そうに見ながら、尾美は素直に質問に答える。
「? ・・・そうだな、初めてだったけど気持ちよかったぞ?」
「ゴホッ!!」
今度は西脇が口に含んだ途端、コーヒーに噎せた。
大抵のことはスマートにこなす西脇が、こんな醜態を見せるとは珍しい。
立て続けに派手に咳き込む二人に、原因になった本人はそんなことには一切気付かずに、
綺麗な眉間に皺を寄せて呟いた。
「・・・なんだ、お前達。汚いな・・・」
「・・・・・・ゴメ・・・ケホッ!」
「悪い・・・違うトコ、入った・・・・・・」
・・・そういう意味じゃないのは、充分わかっているのだが、きわどいことを言っている
自覚のない尾美には何も言えない。
宇崎と西脇は、何か理不尽なものを感じつつ、どこまでも真っ直ぐで純粋で可愛い同期に
素直に謝った。
「あっははは!!」
そんな複雑な表情をしている二人と、不思議そうにしているお気に入りを尻目に、
元凶になったクロウは思った通りの展開に、とても楽しそうにひとり大笑いしていた
のだった。
<END>
コチラは【angreacum】@雛月凛様宅での一万打フリーSSで御座いますvv
ウキャーーvv 尾美ってばvv可愛すぎ!(無防備とも言う。)
そんなんだとね。狼さん(康さん)に美味しく頂かれちゃうよ?(笑)
むっちゃ可愛いお話を…ありがとう御座いました♪
06.11.14 UP